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前橋地方裁判所 昭和36年(わ)89号 判決

(1)昭和三六年(わ)第八九号

判決

被告人

角田光兆

川島行雄

右の両名に対する道路交通法違反、角田光兆に対する業務上過失致死、各被告事件について当裁判所は検察官小川源一郎出席のうえ審理し次のとおり判決する。

主文

被告人角田光兆を禁錮一〇月に、被告人川島行雄を罰金四〇〇〇円に各処する。

なお被告人川島行雄が右の罰金を完納出来ない場合は金四〇〇円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

訴訟費用中、証人清水金吾、同田中なを、同高坂義男に支給した分は被告人角田光兆の負担とし、国選弁護人木村賢三に支給した分は被告人川島行雄の負担とする。

理由

(本件犯行に至るまでの経過)

被告人角田光兆(つのだみつよし)は昭和三〇年頃からブロック製造業にたずさわり、群馬県勢多郡城南村大字二之宮一一五七番地において赤城ブロック工業株式会社を経営しており、自動三輪車については公安委員会の適法な運転免許を受けていないものである、被告人川島行雄は昭和三〇年八月一一日自動三輪車の運転免許を受け、同三三年七月二四日付で群馬県公安委員会において右免許の更新を受け自動三輪車の運転免許を有し、同年一二月頃から右赤城ブロック工業株式会社の職員となり右会社所有のマツダ五八年型自動三輪貨物車(群六せ一四七九号)の運転に従事するかたわら右会社の工員として稼働していたもので、被告人角田は前記の如く運転免許を有しないのにも拘らず昭和三六年一月頃から前記自動三輪貨物車の操縦運転の技術を習得するため、被告人川島を同車の助手席に同乗させ又は単独にて右自動車を屡々運転していたものである。

そして、被告人角田は昭和三六年四月一八日午後六時三〇分過頃から前記会社の休憩室において職員一〇名位と花見酒を共にし日本酒少量(湯呑茶碗一杯位)を飲み、被告人川島も亦、同所において同量程度の飲酒をした後、被告人角田は当時前記自動三輪貨物車のブレーキが一回踏んだのみでは十分利かず、ために続けて二回踏まなければ利かないこと、およびアクセルやハンドルにも多少異状があり、かつまた前照燈も正常でないというような車輛整備の不良である状態にあることを承知していたにも拘らず、右川島をさそい同人を該自動車の助手席に同乗させて、自からこれを運転し、会社より約一、三〇〇メーターへだてた同郡城南村大字荒子六一四番地所在の砂利販売業小川坤(さとる)方に赴むくこととした。

(罪となるべき事実)

被告人角田は、

第一、前記のように運転免許を受けていないのに拘らず、無免許で右同日午後八時頃、前記赤城ブロロック工業株式会社所在地より右会社所有の前記自動三輪貨物車が前記のように整備不良であることを承知しながら、これを運転して出発し、同村二級国道(前橋より水戸に通ずる線)および県道(大胡町に通ずる線)を通り前記小川坤方前に赴むき、同所より引返し同夜午後八時三〇分頃同村大字二之宮四八六番地の五飲食店「楽園」こと森村馬次方前(右走行距離合計約一、五〇〇メーター位)に至り同店に立寄り同夜午後九時三〇分頃まで同店において右川島を相手に清酒(銚子入り計四本)およびビール(瓶入り計三本)等(右のうち被告人角田は清酒銚子入り二本位とビール瓶入り二本位)を飲食し、酒気を帯びて再び右自動車に乗つて時速約三〇キロメーター乃至四〇キロメーターの速度でこれを操縦し、前記県道から国道にでて暫らく行くうちに前照灯が二個共消灯したにも拘らず、車幅灯のみを点灯したままで依然として進行を継続し(前照灯消灯後の走行距離約二五〇メーター)同村大字二之宮二六九番地の一雑貨商小保方武方附近まで全走行距離合計約二、二〇〇メーターを運転し、よつて酒気を帯びて、車輛整備の不良な自動車を無免許で運転し、

第二、更に同日午後九時五〇分頃、前記のように右自動車の前照灯が消灯したため車幅灯のみを点灯し、不完全な照明のまま前記二級国道を時速約三〇キロメーター乃至四〇キロメーターで運転走行を継続中、前記の同村大字二之宮二六九番地の一小保方商店の手前の道路交差点附近に差しかかつたのであるが、被告人は当時酒気を帯びていた上に右のように前照灯も消灯しており、進路の前方および左右の状況を注視し難い等、正常な運転が出来ないおそれが十分あつたのであるから、かような場合には自動車の運転者としてはただちに運転を中止し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにも拘らず、これを怠り漫然何等危険なきものと軽信して同一速力で右交差点を西進して横断しようとして折柄同所を自転車に乗り南から北に向かつて進行してきた木島喜久雄(当時三五才)の発見が遅れた過失によつて左前方約一〇メーター前後の地点に接近してはじめてこれに気付き危険を感じて急遽ハンドルを右に切りつつ急停車の措置を講じたが間に合わず自己の運転する右自動車の車体を右木島の自転車に接触させて同人を路上に顛倒させ、よつて同人に対し頭蓋底骨折の傷害を負わせ同人をして右傷害により同月一九日午後四時一〇分頃前橋市北曲輪町六五番地医師関口林五郎方において死亡するに至らしめ、

第三、被告人川島行雄は右被告人角田光兆が公安委員会の適法な運転免許を受けていないのに拘らず前記自動車を運転操縦するものであることを承知しながら、同人に右自動車の運転を許容し、前同日午後八時頃より同夜午後九時五〇分頃までの間、前記判示第一記載の如く、右自動車の助手席に同乗して右会社所在地附近より同所の国道および県道を通り前記小川坤方に赴むき、同所より折返し前記国道に至り右角田の運転行為を容易にさせもつて右角田の無免許運転の行為を幇助し

たものである。

(犯行後の主な情状)

被告人角田は右被害者木島喜久雄に対し前記のような被害をこうむらした後、前記小保方商店の軒先に設けられた所謂下屋の支柱二本等を破損させた後、一時停車したが、被害者木島の救護等の措置は全然取ることなく同所を立去り、事件後、示談金三〇万円と自動車の損害賠償責任保険金とを右木島の遺族に提供している。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人角田の判示第一の無免許運転は道路交通法第六四条第一一八条第一項第一号(情状により懲役刑選択)に、判示整備不良車輛の運転は同法第六二条第一一九条第一項第五号(情状により懲役刑選択)に各該当し、なお被告人は右各犯行当時酒気を帯びていたものであるから同法第六五条第一二二条第一項第二項刑法第七二条を適用し、所定刑の加重をし、また判示第二の業務上過失致死は刑法第二一一条前段(情状により禁錮刑選択)に該当する。

しかして、右の判示第一の無免許運転と整備不良車輛の運転と判示第二の業務上過失致死との各罪教関係について審案するに、これらの各所為を処罰する立法の趣旨から考えて、各保護法益が異なること、処罰の対象となる主体が異なること、ことに、整備不良車輛の運転に関する行為は運転者が運転免許を有すると否とを問わず、また運転者のみを処罰するに止まらず広く車輛等の使用者その他車輛等の装置の整備について責任を有する者等をまで含めて処罰することを規定しており、その構成要件から見ればある意味においては極めて広い範囲の行為者と行為とを処罰しているのであつて、無免許の運転者が偶々この規定に違反することがあつてもそれは偶然の結果としてそうなつたのに過ぎず、その結果の一端のみをとらえて、この規定を論ずることは出来ない。これらの各行為は処罰の目的が異なる如く、各構成要件に該当する行為自体が相互に異なつている。

それ故、本件の右判示第一の無免許運転と同整備不良車輛の運転と判示第二の業務上過失致死との各罪はそれぞれ別個独立の犯罪が成立するものと解するのを正しい見解と思料するので以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文同但書第一〇条によつて最も重い判示第二の業務上過失致死罪の刑に併合罪の加重をした刑期の範囲において被告人角田を禁錮一〇月に処する。

被告人川島の判示第三の無免許運転の幇助は道路交通法第六四条第一一八条第一項第一号刑法第六二条第六三条罰金等臨時措置法第二条第一項に該当するので情状によつて所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲で被告人川島を罰金四、〇〇〇円に処する。なお右被告人が右の罰金を完納出来ない場合には刑法第一八条を適用し、金四〇〇円を一日の割合に換算した期間右の被告人を労役場に留置する。

訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項を適用し証人清水金吾、同田中なを、同高坂義男に各支給した分は被告人角田の負担とし、国選弁護人木村賢三に支給した分は被告人川島の負担とする。

(量刑)

被告人角田の本件所為は前示認定のとおりであつて、法規を遵守する念に欠けることの多いことはもとより人命の貴重なことを忘却していることも甚だしいものがあると言わなければならない。それ故、前記のように示談金等の支払をしたことを考慮に入れても、その刑責は極めて重いものがある。

右の諸般の事情を一切酌量して前記のようにその刑を定める。

以上の理由によつて主文のとおり判決する。

昭和三七年一月二七日

前橋地方裁判所刑事部

裁判官 藤本孝夫

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